「アキレウスの歌」 マデリン・ミラー

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★★★ 早川書房
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特に期待もせず借り出し。思ったよりよかったです。

視点となるのは平凡な男であるパトロクロス。アキレウスの竹馬の友です。パトロクロスは少年時代、アキレウスの父の城で暮らすことになり、そこで王子のアキレウスに出会う。で、仲良くなってしまう。

このへんの「仲良く」について、女性作家らしく深く想像推察。二人ともなぜか女に興味がなかったんじゃないか・・という設定です。二人の少年が出会うとビビッと電流が走る。当時のギリシャ、男性同士の愛はけっこう盛んだったのかもしれない。

で、アキレウスはもちろん半神半人の英雄です。ギリシャ最高の戦士であり神性をもっている。でも不死ではない。母親である海の女神テティスがアキレウスに伝えたのは「平凡人として長生きするか、英雄として短命に終わるか」の選択肢しかないこと。だからテティスはアキレウスが戦争に参加しないようにいろいろ策略をめぐらす。また「ヘクトルが死なない限りアキレウスが死ぬことはない」という神託もある。

トロイの勇将ヘクトルを殺しちゃいけないわけです。ヘクトルが生きている限り、アキレウスも無事。でも結果的に怒り狂ったアキレウスはヘクトルを殺してしまう。

どうしてヘクトルを殺したのか。それは親友パトロクロスがヘクトルに殺されたからです。ではどうして平凡人パトロクロスは豪勇のヘクトルに立ち向かったりしたのか。それは読んでのお楽しみ。

あんまりベタベタしていなくて、なかなか良かったです。期待にたがわずオディッセウスはなんとも狡智。アガメムノンは強欲で短慮。アキレウスは高慢で純粋培養で人情とか常識には縁がない。もちろん神々は無責任で身勝手に振る舞う。

ホメーロスのイーリアスを読み直してみたくなりました。たぶん学生時代あたりに一回通して読んだことがあったような気もしますが、なにしろ大昔、ほとんど覚えていないし。