「氷結の森」熊谷達也

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★★ 集英社
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森(マタギ)シリーズの最終作ということになってるらしいです。ただし中身は地味な熊猟ではなく秋田の「元マタギ」がカラフトとロシア本土を股にかけて大活躍というもの。半分ハードボイルド、半分は冒険活劇ですね。

心に痛みをかかえた主人公がカラフトの浜でニシン漁の下働きとして稼いでいる導入部はなかなか迫力があります。流れ流れてカラフトくんだり。大正初期が時代設定ですから、一稼ぎできるというんで荒くれ男どもがたくさん行ってたんでしょうね。

子供の頃、戸棚の隅からたしか「雪の夜語り」という本を発見して読みました。冬の北海道を舞台にした小説を集めたものだったんでしょうか。いつ発行で書き手は誰だったのか、まったく不明。中身もほとんど覚えていませんが、ニシン漁とか出稼ぎ労働者の話が多かった気がする。ヤン衆とか群来(くき)とかアツシ(厚手の上着です)とか、この本で知りました。ぜんたいに暗いトーンの内容でしたが、子供ながら雪国の叙情を感じた。しばらく愛読した気がします。

それはともかく。「氷結の森」の主人公は超優秀な兵士あがり(日露戦争では伍長)です。もともとマタギなんで、射撃は神業。体格もよくて腕力もある。おまけにいい男で、やたらモテるけど(お約束で)依怙地にストイック。カラフトに流れてきた飯炊き女に惚れられ、北カラフト原住民ニヴフ(ギリヤーク族のことらしい)の美少女からも慕われる。好きな食べ物はカレーライスにコロッケを乗せたやつ。なんのこっちゃ。

女を救うために氷結の間宮海峡を犬橇でわたり、アムール河口のニコラエフスクへ。ここで発生したのが有名な尼港事件というやつです。要するに駐屯の日本軍・在留邦人がパルチザン部隊に襲われ、おまけに中国艦に砲撃され、ニコラエフスクが廃墟になった。ただし主人公は不死身なんでドンパチ大活躍。可憐なニヴフ少女をつれてまた間宮海峡を・・・・。

ま、そういうお話です。けっこう面白くはあったけど、傑作とはいえません。はやいとこ第一作の「邂逅の森」を探さなくっちゃ。こっちは正統なマタギものらしいです。

本筋とは無関係ですが、この尼港事件の補償として日本は北カラフトを占領したんだそうですね。