「滅亡へのカウントダウン」アラン・ワイズマン

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★★★ 早川書房
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副題は「人口大爆発とわれわれの未来」。前に読んでなかなか良かった「人類が消えた世界」の著者です。「人類が消えた世界」は、なぜか人類がいっせいに消えてしまったら、世界はどう変化するかのを刻々と描写したものでした。たとえば数日後、家はどうなっていくか。数年後に家畜や野生動物はどうなるか。

ちなみに家は思ったより早く崩れます。人の住んでいない住居ってのはダメなんですね。もちろんビルも崩れます。ガラスが破れ、植物がはびこり、コンクリートは腐食する。プラスチックやステンレスはかなり残ります。プラスチックだらけの地表や海にどんな生物が生き残り、繁栄するか。

で、その著者が「滅亡へのカウントダウン」ではもっとストレートに人類の未来に警鐘を鳴らしたのがこの本です。「未来」というほど先ではないようで、ほんの数十年。一世代か二世代で人類は悲惨なことになるかもしれない。原因は温暖化、水資源、環境汚染、食料不足・・・しかし根本的な原因は、要するに人間が多すぎることです。

計算によると地球に負担をかけないですむような人類の最適値は甘めにみて20億人程度らしい。ほんとうはマルサス理論でもっと早めに限界に達するはずだったのに、科学肥料をつかった例の緑の革命でちょっと余裕ができた。余裕ができたといったって、せいぜい数十年です。

リベットの譬えは面白かったです。巨大な飛行機が飛んでいる。乗客が窓の外を見ると、翼の上に人が乗っかっていて、機体からリベットを抜いている。このリベット、高く売れるんですよ。設計に余裕があるからリベットを少しくらい抜いても大丈夫。実際、抜いても抜いても飛行機はまだ壊れません。安心して乗客はまた昼寝をする。森林を伐採してもまだ大丈夫。どんどん水を汲みあげてもまだ大丈夫。農地を増やし続けてもまだ大丈夫。石から原油を絞り上げてもまだ大丈夫。

でも、リベットを抜いていると、いつか「最後のリベット」が来ます。いきなりエンジンが壊れる。こうなると、もう終わりです。墜落しかない。

いますぐ全世界の住民が子供を1人か2人しか作らなくなっても、惰性でしばらくは人口が増え続けます。たぶん90億とか100億とか。しかしこのまま産めよ増やせよを続けていると、あっというまに120億になる。もっと行くかもしれない。その先は、たぶんないでしょう。全員に行き渡るほどの食料はない。

教育を受けた女性が多い先進国では、子供の数が減ります。しかし貧しい途上国ほど子供たくさん作る。幼児死亡率が高いから保険のためにたくさん産むし、労働力の確保でもある。ニジェールのように7人を越える国もあります。

イスラエルのように意図的に出産数をあげている国家もあります(現在は3人程度)。子供の数=兵士の数という考え方です。人口が少ないと周囲の敵対国にのみこまれてしまうという恐怖。みんないろいろ事情がある。

総論としては、人口は増えすぎないほうがいい。しかしそこに宗教が絡み、政治家の思惑や経済学者の成長理論、男たちのプライドが絡んでくると話がややこしい。たんなる家族計画推進でさえ反感をかったりする。米国政府の家族計画援助金は民主党政権時に成立し、共和党政権になると途絶え、また民主党になると復活する。

人口が減る、減らす。なんかイヤなんですよね。人間の自然な感覚に反する。だから中国の一人っ子政策は全世界から嫌悪された。じゃどうすればいいのかというと、実は答えがない。

どんどん人口が増えて、結果的に強制的な人口減少(戦争、食料不足、疫病) になるのか。それとも気分は悪いけど理性的に子供の数を抑えることでそれを避けるのか。みんな現実を見ないようにして生きている。

ちなみに現在の人口(70億だったかな)でも、全員が先進国レベルの生活スタイルをかちとることは不可能だそうです。どうしてもというなら、人口を20億くらいに減らすしかない。昔から言われてましたよね。中国人民がすべて新聞を読むようになったら、世界の木材パルプは品切れになる。ま、幸いなことにネット社会になったんで、この部分だけは避けられましたが。その代わり、みんなが肉を食べたがる。中国だけでなくインドもそうでしょう。みんな美味しいものを食べて安全に豊かに暮らしたい。でも地球にはそんな資源がもうなくなっている。厳然たる事実のようです。