「家族進化論」山極寿一

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★★★ 東京大学出版会

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著者は霊長類学者。ゴリラの本をたくさん書いていますね。テレビなんかにもよく顔を出します。

で、最近は管理職としての仕事がどんどん増えて、たしか去年か今年か京大の総長になったはずです。本人が喜んでいるかどうかは不明。少なくともアフリカでの現地リサーチなんかやれる立場ではなくなって、たぶんフラストレーションが溜まった。以上はもちろん勝手な想像です。

ということで、現地に行けないのならまた本でも書くか。「家族」というキーワードで最近の定説やら研究成果をずーっと概観してまとめたような一冊です。版元が講談社や文春ではないので、軽易に読める一般啓蒙書ではありません。といって論文でもない。あんまり一般向けのサービスしないで、自分の言いたいことを書いた。ま、そんな感じ。ひたすらサルと類人猿の話です。

したがって内容を簡単にまとめるのは無理ですが、いわゆる「通説」もどんどん変化しているですね。たとえば「人間は狩をすることで脳が大きくなった」説はもう受け入れられない。どっちかというと「脳が大きくなったんで上手に狩ができるようになった」らしい。ではどうして脳が大きくなったのか。

ずいぶん前に読んだ「ヒトは食べられて進化した」という本。つまりマッチョ親父たちに好かれた「Man the Hunter」説はもう人気がなく、「Man the Hunted」説がいまでは定説になっているらしいです。小さなルーシーたちが石で豹を殺したと考えるより、豹に食われないようにおびえて暮らしていたというほうが納得できる。

食われないために集団生活し、言葉を発達させ、共感を高めるために「音楽」を利用した。先日読んだ新聞記事では、ルーシーは木から落ちて死んだ可能性が高いとか。不器用だったんでしょうか。

ちなみに表紙のイメージほど柔らかい本ではありません。騙されないように。

どうでもいいことですが、いわゆる思春期の急速な肉体変貌、あれは脳にもう栄養分を分ける必要がなくなって(それまでは脳の成長が優先だった)、ようやく体の成長に資源を振り向けることができるようになったということらしい。つまり産道の関係で小さな脳(成人にくらべて)で産まれた子供は、まず脳をどんどん成長させる。一段落して、ようやく今度は体の成長。成長というのは「子孫を残せる体」になるということです。

なるほど。思春期に勉強しすぎると体が成長しない・・・という迷信も、あながちウソとは言えないのかな。思春期には勉強なんかしないで、スポーツやりなさい。