「ホモ・デウス」ユヴァル・ノア・ハラリ

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homodeus.jpg河出書房新社★★★

サピエンス全史の続編です。テクノロジーとサピエンスの未来。

前作では人間の特質を「虚構をあやつる才能」と定義しました。そこに「虎がいる」という事実ではなく、「危険な虎が来るから槍を作っておこう」と隣人に語れる。
「虎神さまに祈ると危険を避けられるぞ」でもいい。つまりは「嘘」を語る能力です。実際にはないことをあるかのように語る=嘘。


こうしてホモサピンスは他のサルたちから抜け出しました。共通の「嘘」を芯として大きな人間の集団が可能になる。神が生まれ、村落ができ、神官や王が誕生する。「大義」や「正義」のために殺し合いもする。

で、自作はホモサピンスの未来です。これから人類はどこを目指すのか。

上下二巻をつかって述べられているのは、これまで語られてきた「人間が人間であるゆえん」はほとんどが虚構であるという事実です。人間性とか精神とか魂とか・・・すべて嘘。そういうフワフワしたものは存在しない。人間もまたひとつのアルゴリズムに過ぎません。

アルゴリズムというのは、こうすれば次はこうして、それから何をしてこうする・・・という手続きです。ま、コンピュータも精緻なアルゴリズムで動いています。機械もそうだし、動物も生命も人間も、しょせんは大がかりなアルゴリズムなんじゃないだろうか。

こうした考えをつきつめると、ホモサピンスの未来はあまり明るくない。ディストピア。

新テクノロジーは、最初は苦役を減らすため、貧しい人のため、苦しむ病人のために開発されます。しかし、かならず特権階級のための技術に変貌し、独占される。「人間性」とかいうまがいものを捨ててしまうと、あとに残るのはテクノロジーと冷徹な合理主義でしかないです。

臓器の移植。長命医療。遺伝子改良。果てしなく新発明がなされ、躍進、変貌していく。結果はエクセレントスーパーマン。いわばホモ・デウス(神人)です()。ただし、膨大な資本投入による新技術の成果は、ごく少数の手に握られるでしょう。極端な二極分離。特権階級とその他大多数との分離ですね。まるでSFですが、新貴族階級の誕生はそう遠くないかもしれない。

いや、完全なディストピアだけが道筋ではないと著者は言いたいのかな。でもねぇ。何か悪いことが想像できるような場合、たいていはその「最悪」の道を選択してしまうのがこれまでの人類でした。マーフィーの法則ですね。

いやいや、気候温暖化でも核戦争危機でも、それれでもまだ人類は滅びていないぞ。そう考えることもできるかな。まだかすかな希望は残っているのかもしれない。

遺伝子治療で生まれてくる子の疾患を治療・・・という考えと、生まれてくる子を遺伝子技術で天才かつスーパーマンに・・・。その差はごくごくわずかしかない。