「永井路子歴史小説全集 12 姫の戦国」永井路子

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konoyooba.jpg中央公論新社★★★

永井路子シリーズの続きは『姫の戦国』。ヒロインは今川のおばば様、義元の母である寿桂尼ですね。京の中御門家の姫君です。中御門ってのは従一位・権大納クラス。こんな大物貴族の娘がほぼ駿遠二国を有する大大名とはいえ、はるばる地方へ嫁いでくる時代になっていた。

永井路子のこのシリーズの主人公はみんな賢くて行動的です。姫君(実名は不肖)は武家の生き方をすばやく学び、子供をそだて、夫亡きあとは尼御前として存在感をたかめ、北条、武田との難しいバトルゲームをこなしていく。今川家の実質的なリーダーだった。

そうそう。寿桂尼の夫(義元の父)である氏親ってのは、母が北条早雲の姉。深い縁先関係だったんですね。それを言うなら武田氏だって同じで、義元の妻は武田信玄の姉です。だから信玄が父の信虎追放したとき、信虎は今川に逃げ込んだ。娘の世話になったわけで、たいして不思議もない。みーんな繋がってる。ま、そういう経緯で甲相駿の三国同盟なんていう不思議なものもできあがった。

作者がこの本で強調しているのは、当時の駿河の先進性でしょうね。とかく「桶狭間で首とられた軟弱大名」と見られるのはかわいそう。北条も先進の内政だったけど、今川も同じくらい、ひょっとしたらもっと進んでいたかもしれない。前から義元をバカにする風潮はあったようですが、眉描いて極端な胴長だったとか、とりわけ司馬さんあたりの責任も重い気がする。

要するに桶狭間の信長って、極端に幸運だったんでしょうね。以後、別人のように慎重な戦スタイルを通したってのは分かります。
別件ですが、関ヶ原の家康の勝利ってのもひたすら「運」だったような気がする。たぶん、ヤケだった。