文春文庫★★★
このところ永井路子をずーっと呼んでいますが、この歴史シリーズ、最初に読んだのは「山霧」だったかな。毛利元就の妻です。奥付けでは1995年刊の文庫でした。上下がこっちとあっちの本棚バラバラで諦めていたんですが、先日偶然、紛失の上巻がみつかった。じゃあ再読してみるか。
なるほど。やはり悪くはないです。中国地方の山奥、吉川の娘が毛利に嫁ぐ。どちらもさして大きくはない国人クラスの家です。毛利元就はその毛利家の跡取りでさえなく、たった300貫の家。具体的にはわかりませんが、ま、弱小ですね。そのうち宗家を継いでも3000貫だったかな。うわばみ・まむしと称される大国のあいだでウロウロしているカエルです。
で、貧乏国人に嫁いで夫婦になって、その奥さんが40代で死んだところで文庫の上下はおしまい。でも元就はその時点でもせいぜい前頭筆頭クラスかな。山陰と防長には大関クラスの尼子と大内がまだブイブイ言っているし、ほかにも強いのがたくさんいる。先が長いです。
永井路子の歴史ものとしては、そんなに傑作とは思いません。やはり最高作は直木賞もとった「炎環」でしょうね。つまり鎌倉もの。下がって戦国を題材の数作は読みやすいけどちょっとサービスが目立つし、奈良平安の古いところははどうしても地味すぎる。難しい。
で、この「山霧」、傑作とは思いませんが面白い。後味がいい。たぶん毛利元就というキャラがいいんだと思います。どちらかというと陰気で、いつも愚痴をこぼしている。勝っても喜ばない。ひたすら細かいことを考えつづけている。陰謀も辞さないし、それが成功してもグチグチ気に病んでいる。
実際の資料なんかでも、ひたすら綿々と書き綴っているみたいですね。メモ魔。心配症。おまけに天下を望んだりはしなかったし。あ、もちろんですが有名な「三本の矢」。子供たちの仲がよかったらこんな教えは無用です。たぶん、親は不仲を心配していた。そもそもを言うなら遺言しそうな晩年、長男はとうに亡くなっていました。元就死去の8年前だったかな。つまりフィクション。
面白い武将です。