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kouennohito.jpgKADOKAWA ★★★

吉野川の上流、片田舎の葉タバコ農家の子供。貧しくて尋常も2年くらいで上がるのがふつうで、あとはひたすらタバコ農作業。日清戦争もまだの時代です。

そんな子供が近くの町(?)に下りて、ガッチャンガッチャンとタバコを刻む機械を目にする。生まれて初めて見る「機械」です。ガーンと心を奪われてしまう。完全理系の子供が初めて動力で動くメカに遭遇したわけですね。

ま、なりゆきで子供は小さなタバコ刻み工場の職人になる。世事にはいっさい興味ないし、超不器用。関心はメカニズムだけです。必死で本を読み、知識を得る。そのうち電気についても知るようになり、さらにさらに感動する。ほかのことにはいっさい興味なし。

小さな田舎の工場から大阪の工場へ。さらにもっともっと大きな工場へ。少年(青年)はより多くの知識を得るために職場を移る。どんどんノウハウを獲得していく。朝起きてから寝るまで、電気のことしか考えない。効率のよい通信機をつくろうと心血を注ぐ。

こうなるとモデルは松下幸之助か、それとも・・と思ってしまう。きっと奮励努力して何か大発明するんだろうな、きっと。楽しい話になりそうだ

途中、青年はニキビを無意識にかきむしるクセがあることがわかります。なんか違和感。周囲には「やめろ」と言われてるけど、本に夢中になっているとついやってしまう。したたった血が本をよごす。関係した店のちょっと可愛い女の子も登場。予想通り仲良くなりますが、あれ?? なんか違う。すぐに興味がなくなる。たまに会っても、横で暗い顔している女を無視してひたすら本を読みふける。オレの大切な時間を奪うな。邪魔をするな!

いろいろあって、青年は東京へ()。陸軍の下請け研究所。学歴をいつわって、がんばって通信機を開発する。抜擢されて、満州へ。関東軍の下で通信機開発。

こうして、どんどん流されていく。彼は自分のおかれた状況が見えない。アタマの中は「自分が開発した素晴らしい通信機」のことだけでいっぱい。輝かしい大発明だあ!

最後は暗転です。悲劇で終わる。木内昇という人「漂砂のうたう」もそうでした。ドラマがあって平凡な結末になるものは書かない人かもしれません。

 

あははは。上京する際、女のことは完全に忘却。結果、なにも連絡しないで引越ししてしまった。ま、いいか。

 

hyousanoutau.jpg集英社★★★

新選組 幕末の青嵐」「櫛挽道守」の木内昇ですが、これはまたガラリと雰囲気が違う。

時代はほぼ同じで明治初期。舞台は吉原ではなく少し格落ちの根津遊廓。店の「立番」として働いているのが定九郎。なんか怪しい名前で、ま、変名でしょうね。そのうち御家人の次男坊であることがわかる。ちなみに後半になって判明しますが、誇り高かった跡取りの兄は落ちぶれて人力車夫になっていた。しかも役にたたない車夫。

「立番」は見世(店)の受け付け係です。いわゆる牛太郎(妓夫太郎)。ただしNo.1の立番ではなく、No.2。しかもNo.1がやたら有能なんで、実はあまり役に立たない。このほかにも遣手(やりて)の婆さんとか、劣等感の固まりの下働きの男、看板の花形花魁やら、お茶ひいて蹴転(けころ)に落とされそうな下級花魁とか、ま、遊廓のいろいろが展開します。

そうそう。わけのわからない前座の噺家も出てきます。若くもない。才能もない。正体不明。最初のうちは実在ではなく幽霊かと思ってました。しかも円朝の弟子らしい。ほとんどの登場人物は希望なんてもっていません。みんな絶望し、屈折している。作者の表現では沈殿して漂っている。「漂砂」ですね。

とくに大きなストーリーはありません。主人公が特に格好いいわけでもない。ひたすら新時代の閉塞感とでもいうんでしょうか。安っぽい賭場をやっていた男は急に姿をくらます。たぶん西南の戦争に身を投じたんでしょう。売れない花魁は首を釣ろうとして失敗する。花形花魁は水に飛び込む。

ずーっと暗いです。モーローとしている。直木賞の受賞作らしいです。

 

toukyoujjo.jpg集英社★★★

死神の棋譜」「雪の階」の奥泉光です。この人もかなり振り幅がひろくて、読んでみるまでどんな内容か見当がつかない。「雪の階」は二・二六前夜だったし「死神の棋譜」は現代で魔の詰め将棋。ただしどっちも男女が旅したり、謎解きだったり、共通項はある。

「東京自叙伝」はガラリと違います。維新のあたりからずーっと時代をたどって最後は福イチまで。ひたすら一人称でしゃべりまくっているのは転生をくりかえす謎の男です。ん? 男だけではなくたまには女。転生といっても人間だけじゃない。犬にもなるしネズミにもなる。それどころか同時に複数の自分が存在したり、お互いが殺し合ったり。

ま、その時代々々、大事件の裏にはかならず自分がいる。あるときは陸軍の高級参謀。あるときは闇市の新興暴力団。またあるときはサリン事件、秋葉原殺人事件。ジュリアナ東京のお立ち台で初めてジュリ扇使ったのは自分です。

たとえば読買新聞の正刀を応援して原発計画を推進させたのも自分です。原子炉爆発の現場で作業していたのも自分です。想像するに「自分」はどうやら東京の地霊じゃないだろうか。とにかく東京が好き。東京が繁栄するのも好きだし破滅するのも興奮する。世の中、なるようにしかならないんだから責任なんてない。そもそものが「地霊」なんだし。

ひたすら饒舌です。

 

bakumatunoseiran.jpgアスコム★★★

櫛挽道守」の作家です。新選組エピソードを順に追いながら、それぞれを一人称で展開。多摩から函館まで。視点パーソンは20人近くなるかな、

たしか最初は不器用に生きる薬売りの土方歳三で、やりたいことが見つからずひたすらモヤモヤしている。次は日野の佐藤彦五郎。歳三の義理の兄ですね。そして沖田総司。剣にしか興味のもてない不思議少年。そして道場の若き跡継ぎであるさわやかな近藤勇。

こうした馴染みの名前だけでなく、清川八郎とか鵜殿鳩翁なんて視点まで登場する。鵜殿ってのは、浪士隊を京までひきつれた責任者です。着くや否やひどいことになって可哀相に()。

もちろん原田左之助とか永倉新八、藤堂平助などなどズラズラと登場します。だいたい司馬さんあたりが書いた人物イメージそのままですね。それぞれの観点や立場からいろいろ事件を説明していくわけで、とりわけ新しくはないけど安心感はあります。なかなか面白いです。

そうそう。ちょっと異色だったのは伊東甲子太郎かな。あんまりこの人について書いた小説ってないような気がします。たぶん書くのが難しい。ただここでは決して完璧に芝居ができたわけではなく、自分を否定されそうになると、ついムキになって地が出る人物。人間味がありました。

山南敬助もいい人だけど、うーん・・・という性格。斎藤一が暗くて依怙地であんがい面白いです。そうそう、落ち着きはらって見える山岡鉄太郎(鉄舟)も実は浪士組の引率ストレスで胃が痛かったとか。

これが処女作だそうですが、達者な人なんですね。楽しめる一冊でした。

 

)前任者(松平上総介)の辞退で鵜殿がいきなり浪士組引率を命じられたのが55歳。もうトシです。京までは馬だったのか徒歩だったのか。浪士組分裂の責任とって辞職。亡くなったのは62歳だそうです。(Wikiより)

 

 

edowatukuttaotoko.jpg朝日新聞出版 ★★★

中身を知らずに借りましたが、河村瑞賢が主人公です。はて、瑞賢って何した男だったっけ。

明暦の大火、江戸霊岸島に住む一介の材木商人だった七兵衛(瑞賢)は、自宅焼け跡から十両を掘り出し、木曽へ急行する。まだ春浅い季節ですからね、中山道は深い雪の中。そこを必死に旅して、たしか上松だったかな、そのへん一体、木曽ヒノキの統括支配役(村役人みたいな地位かな)と談判。材木買いつけと一手販売権を確保する。

ま、山の中ではまだ江戸の大火のニュースが伝わっていなかったわけです。ただ、だからといってあまり悪どい商売はしなかった。そこそこ妥当な益(小説では通常価格の倍)で、それでも莫大な利益を得た。

以後はいろいろあった末、幕閣に命じられて、奥羽から米を江戸に運ぶ航路を開拓。当時、房総沖が難所で、阿武隈川の河口から江戸へ通じる東廻り航路はできていなかった。また酒田から下関経由、西廻り航路もなかった。途中で陸路を使っていたためえらく効率が悪かったようです。

じゃ、瑞賢って男は、そもそも何がすぐれいたのか。どうも「仕組み」をつくる才能が抜群だったようです。全体をみて人員を配置する。人を動かす。金を効率よく使う。それができた。

従来のオカミ主導だと、あまり細かいことに関心がない。ゴチャゴチャしたことは民間にまかせてしまう。統一がとれない。おまけにイベント全体を鳥瞰する能力がない。権限がない。このへん、現代でも同じですね。お役所はみーんな民間に放り投げる。民間は子会社やら孫会社を駆使したことにして益を(莫大)に得る。お役人は自分の懐が痛むわけじゃないので、無関心。

ま、そういうわけで瑞賢は大きなイベントを巧みに処理できた。公共事業の名人。そのうち淀川下流地域の治水をまかせられる。越後でも中江用水を開削して膨大な米生産を確保する。それが終わると今度は越後会津境の銀山の開発。これも難工事だったけど、なんとか成功。

という具合に次から次へ。最終的には商人からサムライ身分に(どこかのネット解説に「旗本」とあったけど、とうだろう・・・)。長生きして没した

別件ですが安井道頓は秀吉の命で大坂城の外壕を掘り、その後に道頓堀をつくった。角倉了以も同じような時代に高瀬川を開削。偉いひとがたくさんいたんですね。

旗本は1万石未満で将軍に謁見できる(御目見)身分。御目見の権利のないのが御家人。1万石以上は大名。瑞賢は将軍から言葉をたまわったという記述があるから、ゆえに旗本といえるのかもしれないけど、少し違和感あり。どこかに「150俵」ともあったが、一般論として旗本にしては禄が少なすぎるし。旗本ならふつうは「殿様」です。よくわからない。

 

kushibikimichi.jpg集英社★★★

中山道の名物に「お六櫛」というのがあるそうで、御嶽とか善光寺参りの土産として知られた。なんで「お六」なのかは諸説。いずれにしても歯の間隔が細密なもので0.5mm以下というべらぼうに細かい櫛です。毛梳き用。

で、このお六櫛をつくる職人とその娘の話。それも幕末ですね。なんか「夜明け前」みたいな感じです。ただし藤村は馬籠の本陣だったか脇本陣の話でしたが、お六櫛は薮原宿というところの貧乏職人の家です。

薮原宿は奈良井のひとつ西、馬籠なんかよりずーっと北になる。

で、そんな櫛職人の長女。台所仕事に興味はないが櫛作りに燃え、名人と信じる父を手伝い、できれば鋸ひいて生きたいと願っている。もちろん当時、ましてや信州の山の中の宿場です。年頃の娘が嫁にもいかないなんて許されないし、母親や妹の理解もない。

そんな変わった娘のところに、器用で口がうまくていい男で、おまけに才能がある、という優男があらわれる。こんな上質な櫛をおさめて対価がわずかな米だけというのはおかしい()。商売が下手すぎる。もう少し儲けましょうよ・・・。いろいろ動き出します。

なかなか面白かったです。この作品で中央公論文芸賞とか柴田錬三郎賞とか三賞を獲得したそうです。

こんな名人でも、毎日できあがった櫛をおさめての代価は多少の米(現物)だけ。仲介業者が強欲だし職人も無知。

 

新潮社★★★

shinigamikifu.jpg奥泉光は「雪の階」を読んだことがあるだけ。二・二六直前の東京、青年士官たちの気分とか、チンケな華族の家の話とか、発生する怪しげな殺人事件。奇妙な魅力の理系お嬢さまとか、なかなかに面白い本でした。

で、今回は題材が将棋ですね。将棋神社で発見された矢文。結ばれた詰碁の図。ただし不詰めです。登場するのは奨励会、三段リーグ、実名の棋士たち。将棋記者。現実がいつのまにか魔界に変じ、数ページにわたって棋譜が展開。推理+ファンタジー+ミステリ+不可解。そんなに厚い本じゃないですが、かなり読みでがあります。

途中で女流棋士と北海道へ旅するシーンは「雪の階」でもあったな。たしかテキパキした(食欲旺盛な)若い女とぼんやりした記者だったか。今回もそうかな・・と思うと、違います。あんまり単純なストーリーラインじゃないです。作者の叙述を信用しちゃいけない。一転、二転、三転また四殿。

デングリガエシの結末に、えー? と読み直ししようかと思って、やはり止めました。なんかアヤフヤなままでもいい。読後感は悪くなかったです。ただこの作家の本、図書館にはあんまり置いてないんだなあ。

 

ayashiisengoku.jpg産経新聞出版★★

本郷和人という研究者、やたらテレビの歴史番組で見かけます。失礼ながら、一見して偉そうな学者に見えない。よくいえば親しみやすそうな人。サービス精神の固まり。

けっこう面白いんです。発想は実にもっとも。たとえば桶狭間ですね。ほんとうに信長は少数で奇襲したんだろうか。兵力差は2千対2万だったか、ま、本当にそんなに違ってたんだろうか。今川は2万とか2万5千とか、そんなすごい兵力を動員する力があったんだろうか。

理屈でわからなければ試してみればいい()。どっかのテレビ局の協力で実験してみた。50人と20人だったかな。アタマに風船のせて、スポンジの剣をもって、広いところで戦う。ただし20人の側は通信機装備。50人は肉声だけで指令をとばす。で、想像どおり通信機装備の20人が圧勝した。集団戦は整然とした指揮が非常に大切なんですね。この50対20というのは本郷センセイが想定した今川と織田の兵力です。

要するに「常識」とは違って、織田はけっこう豊かで兵力もあった。今川は大軍団だったかもしれないけど、あちこちの砦攻め()に兵力を分散させていたから、桶狭間には案外兵力がおけなかった。で、漫然と戦った大軍と、必死でつっこんだ精鋭の差が出たのかもしれない。などなど。

おしむらくこの本、本郷センセイがどっかに連載したものなのかな。しかも1回の文字量が少ない。で、セイセイはなんか興味ひきそうなことを言い出しては、次号にまわす。次号でも少し情報出して、そのうち忘れる。しっかりと「なるほど・・」という章がないですね。掘り下げ、深みがない。残念。

ちょっと人気とり、媚びの姿勢の見えるのがいけないですね。もう少し毅然とやってもいいと思うのですが。あるいは、その腰の軽さがセンセイのスタンスなんでしょうかね。

 

どっかのボート部員をつかった壇の浦の実験もやったようです。つまり汐の流れと勝敗の関係。結果は予想通り、汐に関係なく入れ換えしても同じ側が勝った。つまり源氏のほうが強いから勝った、ということです。

鷲津、丸根の砦は落ちたか!  ついでだけど、今川(武田もそう)はほんとうに京にのぼって天下に君臨しようと考えていたのか。どうも怪しい。そんな大それた計画ではなかったような気がする。

 

anokoro2022.jpg中央公論新社★★★

3年前に借りて半分も読めずに返したのを、ようやく再借り出し。

すべて武田泰淳を看取った後に書かれたエッセイでしょう。勤めていた神保町ランボオ らんぼおの思い出、交流のあった作家や評論家、河口湖 富士北麓の山荘や地元の人々のこと、さんざん見た映画やテレビのこと。食べ物の話。期待にたがわずいいです。

百合子さん、理由は書いてないですが、たとえば「桃太郎侍」は嫌いだった。たぶん正義の味方がえらそうに活躍するのは好きじゃなかったのかな。火曜日は見るテレビ番組がないと嘆いてる(水曜だったかも)。カッコつけたのより人間くさいのや悪人のほうが面白い。ポルノ映画もよく見ていますね()。

未知との遭遇のような有名映画も、ドンパチの西部劇も、どうでもいいポルノ映画もまったく同列。区別をつけずに楽しんだりけなしたり。ウドンをすすったりカレーを食べたり。67歳で死去。肝硬変と書いてあった。納得。

そうそう。文中、「遠藤麟一朗」の話が出てきます。貧しい女給だった百合子が腐ったような汚いパンプスでドタドタ歩き回るのを(たぶん)美意識的に耐えられなかった(と百合子は想像)。靴屋に連れていって、彼女の月給2カ月くらいする靴を買い与えた。

とにかくスマートだったらしい。輝くようなダンディ。ただまったく知らない名前なので調べてみると、戦後すぐ、学生の身分で「世代」というハイクオリテ雑誌を立ちあげたという。時代の旗手。輝く天才。しかし住友銀行に就職。労働運動にかかわって不遇、左遷。やがてアラビア石油。中東。なんかアルチュール・ランボーを彷彿とさせます。

そうか。それでエンリンが「あれ何だと思う? そう、銀行」と電車の窓から教えてくれるシーンが書かれている。何の意味か不審でしたが、就職したことを暗示していたのね。後年になって、百合子の富士日記がどこの雑誌に連載かを尋ねる電話が入る。もうすぐ単行本になるし、あのときのパンプスのお礼もあるので、本を送りますと伝えると「いや、本屋で買います」とキッパリ。

話の接ぎ穂がなくて「朝、早いですね」と電話口で言うと叱られる。こんな時間を「早い」なんて言うんじゃありません。サラリーマンにとっては、もう決して早い時刻なんかじゃなかったんでしょうね。ちなみに百合子はいろんな場面、いろんな人に叱られています。

ちなみに「遠藤」はなぜか「エン」になる。遠藤麟一朗はエンリン。遠藤周作はエンシュウ。遠藤憲一はエンケン。言いやすいのかな。不思議です。

開高健・牧羊子夫妻招待の中華パーティで、食事の後はより抜きブルーフィルム鑑賞会なんかがあったり。時代です。

当初あった映画関連5行ほどは削除訂正しました。 

 

朝日新聞出版★★★

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ひょっとして新聞に連載だったのかな。少しずつ細切れで読むぶんには大きな問題なかったのかもしれない。

中村文則って、たしかスリの話を書いた作家ですよね。「掏摸。あれは確かに良かった。で、この本もそうした職人+ハードボイルド+ノワールの系譜ですが、評価が難しい。

長編です。だいたい3分割が可能、最初の3分の1はカード占いの男の孤独な生活。カード占いが本職なのか、詐欺師なのか、マジシャンなのか、判別が難しいですが、ま、ちょっと雰囲気のあるパートです。

で、次の3分の1はポーカーゲーム。違法賭博というか、ほとんど殺人ゲーム。強制的に全財産を賭けさせられて、死ぬか生きるかのカード勝負です。破滅すれば死ぬしかない。あるいは女だったら身を売るしかない。いやいや、男だって身を売る。

この部分は、ストーリーとは無関係になかなか迫力があります。あとで読むとかなり変な部分も多いんですが、ま、読んでる最中は面白い。

で、最後の3分の1。これはなんというか、シリメツレツ。広げすぎた大風呂敷の必死回収編。魔女狩り、魔方陣、タロット・・・無理やり後付け説明しようとして、悲惨な失敗ですね。ないほうがよかった。

トータルとして、失敗小説。でもなかなか面白かった。

早川書房★★★★

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ようやく読了。これは16世紀、ヘンリー八世の側近として権勢を誇ったトマス・クロムウェルを主人公とした小説です。王の離婚問題だけでなく、修道院解体、叛乱の鎮圧、なんでもこなした人。「ウルフ・ホール」 「罪人を召し出せ」「鏡と光」の3部6巻。べらぼうな分厚さで、これをぜーんぶ積み上げたら20センチを超えるかも。よくまあ読みきった。

膨大な量ですが、しかし中身の進行具合はそれほどでもありません。1部ではアン・ブ ーリンが王の目にとまり、エリザベスを産み、2人目を流産するまで。そして2部では新顔のジェーン・シーモア登場。ブーリンはロンドン塔へ。審理。そして斬首。

その続き、締めくくりが今回の「鏡と光」です。初代王妃キャサリンの娘であるメアリの処遇。反チューダー派の貴族たちとの対決。やがて地味なジェーンは王妃となり、男児を出産して死亡。で、クロムウェルは次の王妃候補としてドイツあたりの諸公の娘であるアンを推挙します。これが命取りになった。

通説ではハンス・ホルバインの描いたアンの肖像(見合い写真ですね)が盛りすぎだった・・・ということになっていますが、実はホルバインの肖像はかなり写実的というのが定評らしい。はて、真相はどうだったのか。

かなり不可解です。なんせ鍛冶屋の息子にうまれたクロムウェルは、この時点で王璽尚書で男爵。さらにへンリーは彼にガーター勲章を与えた。最後はエクスター伯に据えた。ところがその数カ月後に急にロンドン塔です。なんか筋が通らない・・。


「鏡と光」、いままでにも増して読みにくいです。気の効いた会話で進むんですが、いきなり中身が飛ぶ。ワープする。記憶のない名前がやたらいきなり出現する。このへんの時代背景、かなり知っていないと苦しいですね。知っていても大変。巻頭の人名リストと首っ引き

イングランドはまだ小国です()。海の向こうのフランスと神聖ローマ帝国は強大で、両君主はお互いに牽制しあいながらもイングランドをとりこもうとする。北のスコットランドも南下を狙っている。そんな中でヘンリーとクロムウェルはローマ法王庁と決別したわけで、なかなかにややこしい。。カトリックとサヨナラすればそれで解決ならいいんですが、こんどはプロテスタントが動く。ルター派やらカルバン派やら、聖書刊行問題やら。やたら聖職者が処刑される

ちなみにクロムウェルの政敵はノーフォーク公トマス・ハワード。そして聖職者でもあるスティーブン・ガーディナー。この二人とはずーっと戦い続け、いがみあい、最終的に破れる。この連中とのケンカが意外に楽しいです。

とくにトマス・ハワードという頑固オヤジ。公爵ですから、たぶん王の血筋とかなり近いんでしょうね()。状況によっては、次の王としての継承権を主張するかもしれない立場でしょう。おまけにコチコチのカトリック。

そうそう。神聖ローマ帝国から派遣の大使もキャラになかなか味がある。英語がうまく発音できないので、ノーフォークを「ノルフェルク」と呼ぶ。そもそもクロムウェルだって、いろんな人から「クラム」とか「クロムル」とかだったか、けっこうメチャクチャ。こういう味付け部分が気が利いて凝っているのでなかなか大変です。本当はもっと時間をかけて、じっくり読むべき本でしょうね。もったいなかった。


なんせ、アン・ブ ーリンの首を切るにもわざわざフランスから首切り人を呼んでこなければならないほど。ロンドンの処刑人は下手だったらしい。未開。遅れていた。
クロムウェルは処刑されますが、その子供や甥は無事に生きのこった。日本や東アジアの族誅とは違いますね。で、その甥の子孫がオリバー・クロムウェルです。王様の首を切った。
ハワード一族からはヘンリー8世の2人の王妃を出しています。アン・ブーリンとキャサリン・ハワード。二人とも処刑された。真実は不明ですが罪状は不実密通。
「たぶん王の血筋・・・」 → 逆でした。トマス・ハワードの祖父はボズワースの戦いでリチャード3世と共に戦死。つまり冷や飯派のはずです。ただ父親が世渡り上手だったらしく「12人の子女を使って婚姻関係で勢力を・・・」とWikiにありました。
晶文社★★★
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木村草太はもちろん気鋭の憲法学者。大澤真幸は知りません。(調べたら数理社会学、理論社会学。社会学博士だそうです。わからん)

で、まあ、そのお二人が天皇制について語る。ちゃんと「難しい 天皇制」とあるように、ほんと、難しいようです。

なんせシンボルですからね。象徴というのは実態がないはずなのに、先代の天皇(上皇)は「象徴としての仕事」とかよく語っていました。戦地巡礼とか被災地激励とか。でも国民の共感を得たこととは無関係に、仕事をしたらもう象徴ではなくなる。矛盾。

で、そもそもをずーっとたどってみると、昔から『天皇』は矛盾でよくわからなかった。正体不明。なぜ偉いのか。なぜ権威があるのか。なぜ滅ぼされなかったのか。

賢いお二人がなんかややこしい言い方をしていて、つまりは『空気』なんだそうです。万世一系とか天壌無窮とか、大昔から本気で信じていた人はほぼいなかった。誰も本気で信じていなかったのに、ずーっと続いたのは、そのほうがなにかと良かったから。

信長はともかく、本気で天皇にとって代わろうと思った権力者はたぶんいません()。とって代わったっていいことないし、むしろ残しておいたほうが都合がいい。最終的に「これでいいよ」と空気を読んで保証してくれるのが天皇。そして天皇が保証してくれないと、なぜかモノゴトがうまくはこばない。不思議にギクシャクする。貴重な存在だけど、だからといってさほど大事にされているわけでもない。

天皇は犯すべからざるものだから続いた。続いているから犯すべからざるものである。循環論ですね。木村草太の説では、憲法にきっちりした『民主主義』の定義はないんだそうです。なぜ首相がトップに立つのかの理由付けも実は明確ではない。主権在民と天皇制のすりあわせも実はあやふや。肝心の部分が非常にあいまい。

それでもいいじゃないか・・というのが日本だった。そして「それでいいじゃないか・・」の象徴が天皇制。なんのこっちゃ。ようするに、難しい。難しいけど、なかなか面白い本でした。

いい例として平将門はうっかり「新皇」を称した。これが大失敗だったというわけです。

GHQの当初メモでは、天皇は「headquarter of state」だったかな。そんなふうな書き方だったらしい。それがなぜか「Symbol」にかわった。面白いですね。あと当時は「8月革命論」という考え方もあった。明治憲法下の天皇が自身を否定するような憲法をつくるのは矛盾である。つまり形式としては、昭和20年8月に革命がおきた。そこで断絶した。そう考えないとおかしい。なるほど。鋭いこと考えるもんです。宮沢俊義だったかな。もし違っていたら失礼。

荘園制なんかもそう。基本は地方が天皇に高い税を払いたくない。でも他のやつに侵略されるのはもっとイヤだから、土地の権力者の保護を求めて少し税を払う。中間権力者も同じ理屈でたとえば貴族にアタマを下げて少し税を払う。で、なんで貴族が偉そうにできるかといえば、天皇のそばにいるから。そもそも「天皇に払いたくない」から発したのに、「天皇の側近」に税を払う形をとる。非常に矛盾しているんです。こうして天皇が貧乏になる。

kagamitohikari.jpgのサムネール画像


ようやヒラリー・マンテルの「鏡と光」下巻にとりかかり。

なんせ700ページ。まだ先は長い。ずーっと長い

 中央公論新社★★★
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去年の6月刊行らしいです。短編集。ほとんどがノーベル賞受賞後の作品ですね。

受賞は2012年ですか。もう10年もたった。当座は文芸家協会の副会長とか、権威に媚びた作家だとか、いろいろ言われていました。これは正確には「中国作家協会」「14名の副主席の一人」ということです。

14分の1なら、敢えて断ってカドたてるようなもんじゃなし。黙って出された饅頭をいただきましょう。そういう姿勢が莫言のスタイルなんだと思います。

ま、いずれにしても、当時は中国内でもかなりいろいろ言われたらしい。改革開放後に特有のそうした風潮を訳者の吉田富夫さんは「眼紅病」と紹介しています。目が血走って赤い。要するにヤッカミ。

そのためか掲載の短編、村の嫌われ者とか、厭味な男とか、疫病神みたいな女とかの話が多いです。みーんな思いっきりゆがんでいる。改革開放前の農民が正直でまっすぐだったとは死んでも言わないでしょうが、少なくとも良くなったともいいがたい。

表紙の絵は、たぶん大きなスッポンです。かみついたら雷が鳴るまで放さない。

中央公論社★★★

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永井路子歴史小説全集」の後半です。

「絵巻」は『字でかいた絵巻』だそうです。平忠盛、丹波局 丹後局、平知康、源通親、藤原兼子などを主役にした「絵」の部分と、それをつなぐ「字・詞書」の挿入部分が静賢法印日記。

しらない人物がやたら多いです。忠盛は清盛の父親ですね。これが「すがめ殿」。丹後局は後白河が可愛がった女らしい。ごく平凡な後家だったのがなぜか後白河と相性がよかった。これが「寵姫」。
「打とうよ鼓」は鼓判官といわれて嫌われながら世渡りした平知康。そして「謀臣」は源通親。やたら美男子で女にもてた政治家らしいです。「乳母どの」は鳥羽上皇のお気に入りだった乳母。

ま、そういう短編をつないで京の政界事情を描いた。ちなみに静賢法印は信西入道の子供で、後白河の側近。もちろん信西は保元の乱の立役者。平治の乱で逃げて穴ほって隠れたということになってる人です。
ちなみに後白河とはどういう人物か。近くに仕えたこの静賢法印の観察(=永井路子の解釈)は非常にわかりやすいです。日本一の大天狗などではまったくなく、完全な政治音痴。そもそもまったく関心がない。


このほか「執念の家譜」。これは三浦義村(大河では山本耕史)の子供である三浦光村の話です。最後まで生き残った三浦一族もついに滅びる。「裾野」は曽我兄弟と、十郎の恋人といわれた大磯の遊女於虎の話()。十郎がうそつき男です。

なかなかよかったです。
※ 「虎が雨」という季語もありますね。陰暦5月28日

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