「水軍遥かなり」加藤 廣

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★ 文藝春秋
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この作家、初めてかと思ったら「信長の棺」の人だった。たしかマズマズの本だったような記憶があります。

で、「水軍遥かなり」は九鬼守隆が主人公。父親の九鬼嘉隆は巨大な 鉄甲船で毛利水軍を破ったことで有名ですが、息子の守隆は関ヶ原で東軍について戦った。真田親子と同じで、東西に分かれた。けっこう面白い連中です。

結果としては「?」でした。ちょっと守隆少年がデキスギ君。10歳にもならないうちから利発で冷静で、オヤジ顔負け。12歳くらいになると父親が子供の意見を求めたりする。小説としてのデキはあまり評価しにくいし、消化不良。

やはりこの九鬼親子に関しては(またか!)岳宏一郎「群雲、関ヶ原へ」が秀逸すぎました。「群雲」で描かれる九鬼は誇り高く狡猾な海賊大名としっかり者の息子です。キャラクターが非常に鮮明。こういう名作を読んでしまうと、他の本が凡庸な印象になってしまいます。それにつけても次作の「群雲、大坂城へ(仮称)」はまだ出ないのか。著者が死んだという話も聞こえないのて、気長に待っています。

そうそう。唯一よかったというか、新しい視点は、九鬼水軍といってもしょせんは志摩のマイナーな勢力であり、天下争いに翻弄される小大名でしかなかったということ。ま、そうなんでしょうね。石高からいえはせいぜい3万石とか5万石です。

ただ「群雲」の視点では、そんな小大名であるにもかかわらず、水軍の力というものは侮れなかった。どんな大軍であっても、海上から攻められると手も足も出ない。東軍が東海道を西へ進む際にも、街道沿いの集落が次から次へと焼かれる。海賊どもが手薄なところに上陸して、村々を焼いたり強奪したり。ソレッと追いついた頃にはもう船に乗って消えている。住む世界、テリトリーが違う。陸上の武将たちからみると実に怪しげで正体不明の連中です。現実にはけっこう大きな駒として計算せざるをえなかった・・・・ということでしょうか。