河出書房新社★★★
聊斎志異の閻連科バージョン。というか、聊斎志異の形をとって勝手気ままに書き殴ったようなものですか。「書き殴った」なんて乱暴な言葉ですが、ま、実感。思いつくままキーボードをたたきまくった。
まず登場するのは康熙帝です。清の第4代皇帝。8歳にして即位。明の呉三桂たちを鎮圧。ロシア帝国と戦ってネルチンスク条約締結。モンゴルを鎮める。などなど。要するに『大帝』だったわけですね。
で、その退屈した康熙帝が「物語を読みたい」と希望する。ん、「肖像画を描かせよう」だったかな。そうそう、優れた絵師を探させる。あるいは面白いお話を書かせる。
皇帝なので、無茶言います。気に入らないとすぐ死を賜る。乱暴な命令を下す。なにを言ったって宦官も百官もへへーとひれ伏す。
というふうな設定で、地方の物書きが怪異の話を書いて(駅伝みたいにして)送ってくる。たいていは狐の話。読書人が狐の美女に誘惑されてなになに。(なんでよりによってその男が美人狐となになにになるのか、理由は常に不明)
聊斎志異のそれぞれを現代風にふくらませたらどうなるか。その見本みたいなものですね。ワンパターンですぐ飽きる。衣服を脱いだ美人狐がアホ男にいろいろサービスして、最後は狐が姿を消す。その連続。たまには現代風にSMもあって、中年読書人が狐をムチでしばいたり。
だんだん飽きてくるんですが、そこからが後半。物語に書かれた『歓楽国』へ実際に行ってみようと詔を下した康熙帝(67歳)。反対する奴は死を賜るぞ。で、延々と旅をしてついに不思議の国にたどりつきます。ところが家来と別れて単独行動しようとしたばっかりに、不可思議な大冒険が始まる。説明できませんが、ま、鏡の国のアリスの聊斎志異版です、逆世界。
なんだかんだあって、皇帝である自分がなにをしてきたのか、どう思われてきたのかを身につまされる。皇帝の権威もここではまったく通じない。怒ったり、がっかりしたり。みんなに馬鹿にされるたびに、ふしぎなことに肉体が若返る。逆の世界ですから。最後は青春の十代。あは。
そうそう、別件。『冷宮』という言葉、知りました(※)。寵愛を失った妃たち(あるいは罪を犯したと思われた女たち)を閉じこめておく軟禁の場ですね。で、そこで死んだ女たちに帝は難詰される。罪はもちろん、どうせ私の名前も覚えていないんでしょ? え? 言ってみなさいよ。
楽しく読めると思って借り出したんですが、けっこう大部で、いやー、時間がかかった。自由奔放書き殴り。閻連科の失敗作とは思いませんが、傑作とも思えません。ま、こういう内容じゃ習近平は怒るでしょうね。康熙帝になぞらえて私をおちょくっている本じゃないのか。閻連科、本国では無理でもっぱら台湾での刊行らしいです。
※冷宮跡は北京の故宮にもあるそうです。ただ非公開なので知られてはいない。