「ゴースト・トレインは東の星へ」ポール・セロー

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★★★★ 講談社

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いい年こいた旅行作家が、ロンドンから東欧、トルコ、トルクメニスタン、ウズベキスタン、インド、スリランカ、東南アジア、日本、そしてシベリアを経由して戻る鉄道の旅の記録です。

セローは30年以上も前、まだ若かった頃にも一周旅行をして「鉄道大バザール」という本を書いたようです。若いころのその旅を再度なぞって回ってみた。一種のセンチメンタルジャーニーでもあるんでしょうか。

大部ですが、非常に面白かったです。

基本的にこの人は無機的な都会が好きではないらしい。田舎が好き。素朴な人々が好き。しかし、だからといって汚い二等車で旅するような元気はないので、可能なら一等車に乗りたい。鈍行はもちろん困る。危険はもちろん避けたい。

一周ルート、悲惨な国と地域を通っています。描写はかなり誇張されている気配がありますが、それにしても酷い地域です。悲惨な人々と可能な限り会話を交わし、同情し、あるいはうんざりし、都会に着くと快適なホテルで一息入れて酒を飲む。最高級のホテルには泊まりませんが、かといって汚いホテルも嫌いです。まずまず清潔でまずまず快適なホテルが好き。

東京はあまり好きではないようです。清潔かつ繁栄する無機質都市の片隅で、このへんくつ親爺はポルノショップやメイドカフェを探検します。異常進化したエロマンガとカワイイ文化にヘドを吐きそうな気配です。

東京では村上春樹に街を案内してもらっています。ここで描かれる春樹、意外な面を見せてくれてますね。春樹ファンにとっては新発見でしょう、たぶん。

北へ向かう列車に乗り、雪の北海道へ。そして北のてっぺん、何もない街・稚内へ。このへんまで行くと都会臭は完全に払拭され、セロー好みの素朴な住民に出会えます。雪に閉ざされた街の飲み屋で毎晩酒をご馳走になり、近くの温泉をめぐり、満足してまた日本海を南下する。

そして京都。奈良。また東京に戻って新潟。海を渡ってウラジオストク。長いシベリア鉄道の旅は想像どおり、単調かつ陰惨です。

いい本でした。文庫で刊行されているようなので「鉄道大バザール」も読んでみようと思います。調べてみたら訳者は阿川弘之でした。へぇー。

そうそう。アーサー.C.クラークのファンはスリランカ編を読まないほうがいいかもしれません。インタビューに応じて登場する大御所クラークは、うーん、かなり困った老いぼれ親爺ですね。筆致はかなり辛辣です。もっともこのポール・セロー、とにかく情け容赦なく書きまくるのであちこちで嫌われているような模様です。ま、当然ですが。